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『月』

許してください
などという
甘い言葉は
存在することさえ
忘れていた

愛する、とか
好きだ、とか
そういう言葉は
TVドラマの中の
台詞だと
思っていた

わたしが
どんなに
重い罪をおかしたか

たとえば
神という存在が
あるならば
一番ご存知であろう
はずなのに

なぜ
こんなわたしの
記憶の中にさえ
今も
美しき思い出は
よみがえるのだろう
人を人とも
思わぬような
無慈悲ざんぎゃくの
行為を極め
それでもなお
悪運強く
罪を免れ

こうして
世間のかたすみで
普通の人のごとき
日々を
生き続けている

そんな
愚かを
愚かと称する
ことさえ
愚かに思えるほどの
愚かなる わたしの

心さえ
なくしたはずの
けれど
心としか呼べずに
存在しつづける
わたしの感情の中に

もしも
あの日を
やり直せるなら、と
もしも
あの日を
もう一度
そんな もしもの
あの日を
何度 夢に見
くりかえし
うなされ
飛び起きた
ことだろう

四畳半のさびれた
安アパートの
部屋の隅

そんなわたしが
今夜
また飛び起きて
真夜中に
そんなわたしが
ひとり

よごれた
ガラス窓から
差し込む
きれいな月を見て
泣きました

うつくしい、と
思って
泣きました


許してください
などという言葉は
存在することさえ
忘れていた

かみさま
などという言葉は
つくり話だと
思っていた